風邪の季節もひと段落し、久々の記事更新です。今回はインスリンアナログと妊娠について。
FDA(アメリカ食品医薬品局)は、医薬品の胎児への危険度を胎児危険度分類 (pregnancy category) として公表しています。ちなみに、授乳危険度分類というのもあります。日本には公的な胎児危険度分類が存在しないため、日ごろ我々は米国FDA分類やオーストラリア分類などを参考に、妊婦さんや妊娠の可能性のある女性への薬の処方の可否を判断しています。日本の薬の添付文書にも妊娠に対する危険度の表記はありますが、結局ほとんどの薬剤は『治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること』という何とも歯切れの悪い表現でごまかされているのが実情です。
1型糖尿病の患者さんは若くして発症する人も多く、当然妊娠中もインスリン注射をがっつり続けねばなりません。時代と共に優れたインスリン(ランタス、レベミルなど)が続々登場してきて、血糖コントロールは随分楽になってきているのに、妊娠希望があるから、あるいは妊娠の可能性のある年齢(つまり若年女性全員)だからというだけで、世代の古いインスリン(NPH、つまり「N」)を使っている、あるいは切り換えさせられている患者さんも少なくないです。一方、圧倒的多数の患者さんにとってランタス、レベミルの方がコントロールがうまくいくのは間違いないので、Nでコントロールを乱すくらいなら、ちょっと心配はあるけどランタス、レベミルのまま続けてる患者さんも多いです(ちなみに私はこちら派です)。でも、カテゴリーが低いとわかっている薬を使い続けるのって、なんだか一抹の不安はありますよね。
このたびFDAにより、レベミルの胎児危険度分類がNと同等のカテゴリーBに格上げされました。ちなみに、カテゴリーAというインスリンは存在しません。なので、事実上レベミル安全宣言。まだFDAの公式見解ではありませんが、ランタスについても安全性はNとそん色ないという報告が複数出ており、格上げは時間の問題でしょう。
レベミルファンの女性の皆様、これからも安心して現在の治療を続けてください。あ~、すっきりした。
※FDAの胎児危険度分類は明解に危険度を示してるので非常にわかりやすいのですが、人間の体というのはそう単純なものではないので、残念ながらFDAも日本の添付文書のように記述型の危険度評価に切り換える予定と公表されてます。今のところまだ実施されてませんが、何だか残念な話です。
※※超速効型インスリンに関しては、ヒューマログとノボラピッドが既にレギュラーインスリン(R)と同等のカテゴリーBになっています。アピドラはまだカテゴリーCですが、いずれ格上げされると予想されます。
※※※米国FDA胎児危険度分類の基準(矢印の右は私の解釈)
カテゴリーA:ヒトの対照試験で危険性は見いだせない ⇒絶対安全!(ほんまかいな)
カテゴリーB:ヒトで危険性の証拠はない ⇒事実上安全
カテゴリーC:危険性を否定することができない ⇒多分大丈夫だから必要なら注意して使おう
カテゴリーD:危険性を示す確かな証拠がある ⇒ダメ!
カテゴリーX:危険性は利益を上回る⇒ 論外!!!
関連リンク
ノボノルディスクファーマ社プレスリリース(英語)
FDAについて
胎児危険度分類について
さて、話題のiPro2。正確には「これから話題になる」iPro2。なにしろまだ公式発売どころかお披露目も行われていません。しかし既に患者さんたちの間では、医師よりもはるかに早く情報が出回っているようです。前回記事をアップしてからたくさんのメールをいただいていますが、多くの方はiPro2の概要はご存じで、早く装着したいがどうしたらよいか、という内容がほとんどです。
それで前記事でも述べたとおり、まず最初の被験者として私自身が装着してみました。今回は、その感想と結果のご報告です。
まず腹部の皮下に電極センサーを留置します。電極センサーは、旧式の CGM gold で用いていたもの同じ SofSensor を使います。結構針が太くて長いので「どれだけ痛いんだろうか・・・」と心配していましたが、それほどでもなく拍子抜けでした。でも刺した後は緊張でどっと疲れました。
しかしこのセンサー。ちくちくといかにも針金か何かが刺さった感じがしてちょっと気になるな、と思っていたところ、実は欧米では既に1世代進化した Enlite という電極が使用されていることが判明。今回iPro2で日米同時発売を喜んでいましたが、残念なこと電極センサーにはまだデバイスラグが残っていました!
装着後は、貝殻みたいなiPro2本体をパチッと取り付け、全体を4×6㎝程の透明な保護シールで覆って、センサー刺入部を保護しました。これが前回もお見せした写真。
器械自体はとても小さくて、腹の上からでは装着してるのがわからないほど。前述のようにセンサーが皮下に残っているので何だかチクチクして気になるけど、生活上は全く問題ありません。装着直後からいつもの仕事に戻り、往診に出かけました。何となくおなかが気になりながら。
そして、4日間の検査が始まりました。第1号患者さんの前に自ら試してみることによって、とても多くのことを学べました。
・goldより本体が劇的に小さくなり、コードもないため、全く邪魔にならない。
・校正入力がなくなったこと、余計なアラームが鳴らないことなど、とにかく格段に負担が減った。
・しかしやはり刺入部が気になるし、器械をつけっぱなしというのはストレスである。
・センサーの装着場所は臍の真横だと前かがみになった時に邪魔なる。ベルトラインも避けるべき。
・保護シールはかなりしっかり体に密着し続けるので入浴は全く問題なし。
・シールか、センサーの金属アレルギーかわからないが、かゆい。
・いろいろな思いを抱きながら検査を終え、結果を開く時にはドキドキワクワクする。
そして、iPro2よりはるかに負担の大きいgoldなんて今となってはもう受けたくないです。しかしこれまでgoldの検査を2度3度と受けられた方もいらっしゃって、その人たちはそんな負担を我慢してでも血糖コントロールをよくしたいという思いが強いということ。それにきちんと自分は応えられていただろうか、と自問自答してしまいました。
で、結果は・・・・・食後も特に目立った血糖上昇はなく、一貫して平~~~坦な血糖変動で、概ね100前後で落ち着いていていました。夜間は特に真っ平。こう見えても私は関西出身なので、オチの一つでも欲しいところでしたが、ネタ的には不発でした。冗談はさておき、とにかく異常がなくてホッとしました。しか~し!正確なことを言うと、空腹時血糖が100をかろうじて切っているだけというのは決してほめられたものではなく、食後にむしろ低血糖を起こしているというのは、2型糖尿病へ向けてのステップを進み始めている可能性はあるのです。これを見て、私もダイエットを決心しました。

実際ご自分が糖尿病を患っていらっしゃる方は、こんな表を見せられて気分良くはないと思います。申し訳ありません。しかし医療従事者を始めさまざまな人たちにこの表を見てもらい、CGMというものの存在をまず認識してもらうことが大切と思うからこそ、アップしました。
これまで通り、当院かかりつけの患者さんでなくても、検査を承っています。ただし保険外診療で、検査料はカウンセリング込みで条件により12,000~20,000円です。ご自身の検査をご希望の方、あるいは担当患者さんの検査を検討中の先生は、メールいただければ詳細をご説明さえていただきます。
(まだ続く)
皆様、本当にながらくお待たせいたしました。明けましておめでとうございます、と言いたいところですが、もう2月ですね。しばらくブログの更新が止まり、いろいろな方面から心配や激励の声をいただいて参りました。ありがたいやら、申し訳ないやら。そんな気持ちで過ごしてきたこの数か月です。思い返せば1年半前、開業直後のどたばたが収まりしだいブログを始めようと思ってたものの、すぐに風邪シーズンが到来。あっという間に半年が経ち、5月にようやくブログ立ち上げにこぎつけました。そして今回も風邪シーズンに巻き込まれ、昨年より講演依頼なども増えて、あっという間にもう節分・・・・すいません、言い訳がましいですね。
さて今回のニュースは、CGM(Continuous Glucose Monitoring;持続血糖測定)の新機種についてのお知らせです。
しばしばデバイス・ラグ(政府の許認可が遅いため、最新の医療機器の提供が海外より大きく遅れること)の代表に挙げられる1型糖尿病領域ですが、ついに日本メドトロニック社がやる気を出してくれました。これまでにも本ブログでたびたびご紹介してきましたが、血糖値を最長7日間(通常は5日間ですが)持続測定できるCGMによって、それまで点でしかとらえられなかった血糖値の変動が連続的な曲線でとらえることができるようになり、血糖コントロールに関する考え方が大きく変わりました。
コントロール良好な1型糖尿病の血糖日内変動の1例。夜間がフラットなのでコントロールはとても安定しています。昼、夕食はカーボカウントが上手いくできているので食後血糖もしっかり抑え込めていますが、朝食後の血糖上昇が抑えきれていません。でもお昼までには下がっているので、食前血糖を測っているだけでは検出できません。これは1型糖尿病の典型的なパターンで、HbA1cの最後のひと下げができない場合、午前中に高血糖が隠れていることが多いです。
しかし現時点(2012年2月1日)で国内において使用されているCGMは、他の先進諸国で使用されている最新型より数世代古いものです。世界で最初に発売されたCGMである「CGMs gold」(以下gold)は、繁雑な手続きを経てようやく国内で認可・発売された時点で既に米国で生産が終了していたため、米国にわずかに残された在庫200台が限定で輸入され、もはや骨とう品と呼べるような代物を国内大手病院で奪い合いました。
幸いなことに私は、以前勤めてた病院で日本メドトロニック社のインスリンポンプを多数導入した実績を評価していただき、開業時に特別にgoldを1台売ってもえました。そしてそれが開業時には当院のウリの一つだったのです。
以前にもご紹介したスライド。講演会でもよく使ってきましたが、これももう更新ですね。
しかし国内在庫はたったの200台。壊れても修理不能。文字通り宝物のようなgoldなので、院外持ち出し禁止、検査は入院のみ、という病院が現在でもほとんどです(入院で行うのは、保険点数上の理由もありますが)。その後日本での需要の高まりを受け、米メドトロニック社はメキシコにあるとうの昔に廃止した古い製造ラインを日本マーケットのみのために再稼働させたといいいます。おかげでようやく国内で追加購入や修理ができるようになったのですが、何とも馬鹿げた話です。
それがなんと今回は、最新型CGM「iPro2 professional」(以下iPro2)が日米同時発売になりました。価格も現行骨とう品の半額! 国際標準に従えば最新技術を低コストで調達できるという、グローバル・エコノミーの見本のような事例です。何かと議論の的となるTPP(僕はどちらかというと反対ですが)の推進論者も泣いて喜びそう。
今回もとても有難いことに、iPro2の公式発売日が4月”頃”とまだ未定な段階から(その後2月に前倒されましたが)、また一般医療従事者へ初めてのお披露目となる第46回糖尿病学の進歩に先立ち、当院がぶっちぎり中部地区でいち早く、そして恐らく我々の知る限りクリニックとしては日本でも一番速く(間違ってたら訂正します)、手に入れることができました。
ある日の診察終了後、看護師から「ま~たiPodか何か買ったんですか!」って無造作にこの箱を渡された時、私も何が届いたかすぐにはわかりませんでした。goldの箱と比べてあまりにも小さく、手元に届くのもまだまだ先と思っていたので。でも左上のメドトロニックのロゴを見て新しいCGMと気づき、正直手が震えました。どきどきしながら箱を開けてみると、
左が従来型のgold。右が新型のiPro2。進化の速さに驚かされます。
iPro2は驚くほど軽くてコンパクト。例えて言うならアサリの貝殻。goldで非常にうっとうしくて不評だったケーブルもありません。測定電極を直接本体に接続します。防水仕様だから入浴も可能。ただし刺入部は濡らしたくないので、全体を保護シールで覆います。goldでは刺入部を覆ったシールからケーブルを出さないといけないので、隙間から水が入ってしまうし、ケーブルがずれるたびにシールが剥がれてくるのです。はがれかかったシールは、こすれると痒くて痒くて。
患者さんにやれと言うことは、自分でもまず試してみたい性分。でないと患者さんの気持ちがわかりません。でないと患者さんに勧めることもできません。なので過去には、1日4~7回の血糖自己測定+インスリン1日4回注射を1か月間やってみたり、糖質制限食、蛋白制限食、厳格な塩分制限もやってきました。そして今回は最新のCGM。
あ・・・みっともないお腹ですいません。ダイエットしとくんだった。年末年始不摂生したもので(診察時にみんなが使う言い訳)。次は、患者さんに日ごろやれといっている体重減量を自分も実践します!
本当は本ブログでもおなじみのS村君に第1号になってもらう予定だったのですが、仕事が忙しくてすぐ来院できないとのことで、今回は待ちきれずに私が先に装着しちゃいました。
着けてみた感想は、とにかく小さい!服を着ると装着してることすらわかりません。また、goldでは1日に4回血糖測定し、その値を入力する必要がありました。iPro2でも1日4回の血糖測定は必要ですが、検査終了後の解析時にまとめてPCから入力します。アラームが鳴ることもないので、学校や職場に着けて行っても全くわかりません。ただし、途中で測定エラーが生じていてもアラームがないため、解析しようとしたら検査できてませんでした、という可能性はあります。なので、ここ一番絶対に失敗の許されない検査の場合は、これからもgoldが使われる見込みです。例えば、入院期間中のCGMなどがそうでしょう。日本メドトロニック社も、「goldとiPro2」を「旧型と新型」とはとらえず、「目的の異なる2機種」として併売を続けるそうです。圧倒的にiPro2に分があると思うのですがね。
(続く)
前回の記事でお知らせしたアピドラ供給停止のショッキングなニュースは瞬く間に全国を駆け巡り、当ブログでも各種検索エンジンで「アピドラ 供給停止」の検索ワードから訪問者数が一気に伸びました。
しかしS社の恐らく血のにじむような(想像ですが)企業努力により、代替製造ラインによる供給再開により現在の供給を維持する目途が立ったとのことです。このブログでもいろいろと議論が白熱しましたが、結局は大丈夫ですよというのが今回のオチ。
しかしあくまでも、現在の供給量なら維持できそうになった、と言う意味です。「もしかしてガセじゃねえの?」とか思って買い占めならぬ処方占め(?)などで予想外に需要が伸びると、対応しきれなくなる可能性があるそうです。
現在アピドラでコントロールが落ち着いている人はそのままアピドラを安心して使い続けてください。
今回の件でインスリンを他の超速効型に切り替えた人は、しばらく試しに使ってみてはいかがでしょうか。
敢えてこの時期に他の超速効型インスリンからアピドラに切り替えを主治医にお願いするのは控えていただいたほうがいいかなと思います。
さまざまな事情でインスリンを一時的に多目に処方してもらって手元に蓄えるケースがあるかとは思いますが(大きな声では言えない理由もありえるかと思います)、少なくとも今はやめておきましょう(じゃ普段はいいのかというと・・・・医者の私からはよう言いません)。
上記画像の原文はS社ウェブサイトからどうぞ。

Author:Natchy
「ソレイユ千種クリニック」院長。
名古屋のど真ん中、名古屋市千種区の西の端、イオン千種の北裏にあります。
内科医は「あなたの街の何でも屋」なので、風邪から腰痛、健診、予防接種まで原則として何でも診察しておりますが、ライフワークとして特に小児〜青年期の1型糖尿病の治療に熱い情熱を注ぎ、クリニックの外では1型糖尿病患者会活動とカーボカウント普及活動を行っています。
クリニックについては、右記リンク集からホームページをご覧下さい。このブログでは、1型糖尿病に関する基本知識や最新情報を中心に、クリニックの紹介、糖尿病に関する最新情報、それに対する私の考え、様々な病気や健康に関する情報、全く個人的な趣味、家族のことまで、徒然なるままに書きつくっていこうと思います。燃え尽きないようにゆっくりやっていきますので、末永くお付き合いください。
急に更新が止まっても、気長にお待ちくださいね。